中学までの知識だと原子や分子,化合物の存在自体は認知しているが,それらの性質そのものを学ぶことが無かったのではないでしょうか.しかし存在は知っている原子や分子・化合物にも重さや反応性といった,それぞれが持つ特有の性質が存在している.ここではそういった性質の基本となる「重さ」について学んでいきましょう.
化学の世界に入るならば,まずは原子・分子の世界に踏み込んでいくことになります.そこで最初に考えるべきは重さになりますので,まずその重さについて定義します.化学において使われる原子の重さとして最も厳密なものに「質量(絶対質量)」というものがあります.
ex) 各原子の質量
こうして質量を定義することが出来たので,これから学ぶ化学は全て厳密な質量で議論していけば良いようにも思います.確かにそれで正確に議論することは可能ですが,実際問題として各原子の質量は非常に小さい値であるため計算が面倒でかつ,質量を用いて実験をするとなると,正確な測定が事実上不可能であることから不便に感じることが多いと思います.
ではそういった不便をどう回避するかというと,ある個数の原子集団の質量を定義して,数値として扱いやすくすることではないでしょうか.そうして定義される質量に「相対質量」というものがあります.
ex) 各原子の相対質量
こうして質量・相対質量を定義していきましたが,相対質量の求め方だけ確認しておきます.
定義を振り返ると,「$\ce{^{12}C}$の質量を基準として」とありました.ここで$\ce{^{12}C}$の相対質量を「12」と定め,その比を表す以下の式より相対質量を求めていきます.
\begin{align}
\text{考える原子の相対質量} = 12 \times \frac{\text{考える原子の質量}}{\text{$\ce{^{12}C}$の質量}}
\end{align}
例えば水素($\ce{^{1}H}$)だと
\begin{align}
\ce{^{1}H} &= 12 \times \frac{\esi{1.6735}{-24}{g}}{\esi{1.9926}{-23}{g}} \\
&= 1.0078 \\
& \approx 1.01
\end{align}
より相対質量が1.01($\ce{^{12}C}$の約1/12倍の質量)だと分かりました.同様にして窒素と酸素の相対質量も求めると以下のようになります.
\begin{align}
\ce{^{14}N} &= 12 \times \frac{\esi{2.3253}{-23}{g}}{\esi{1.9926}{-23}{g}} \\
&= 14.004 \\
& \approx 14.0 \\
\ce{^{16}O} &= 12 \times \frac{\esi{2.6560}{-23}{g}}{\esi{1.9926}{-23}{g}} \\
&= 15.995 \\
& \approx 16.0
\end{align}
こうすることで特定原子の重さを扱いやすい数値に変換することが出来ました.なお質量には「g」の次元が付いていますが,相対質量は比の値であるため無次元量です(式よりgが打ち消しあうことが分かると思います).
では,次に実際に与えられた数値から相対質量を計算してみましょう.
質量,相対質量の確認を終えたので,次に元素の重さ,原子量について確認しましょう.元素は基本的に1~3個の安定同位体で構成されているため,それら安定同位体の存在割合を考慮して原子量を求めなければいけません.具体的には,各安定同位体の相対質量と存在比の積の総和が元素の平均的な相対質量,すなわち原子量となります.式で表現すると以下のようになります.
\begin{align}
\text{原子量} = \text{同位体Aの相対質量} \times \text{同位体Aの存在比} + \text{同位体Bの相対質量} \times \text{同位体Bの存在比} + … \tag{1} \label{atomicweight}
\end{align}
日本語交じりの数式ではただ翻訳しただけですので,具体的に計算することでイメージを掴んでみましょう.
水素の原子量を求める場合,$\ce{^{1}H}$の相対質量と存在比をそれぞれ1.0078,99.985%,$\ce{^{2}H}$の相対質量と存在比は2.0141,0.015%とし,上の式に当てはめてみると
\begin{align}
\text{Hの原子量} &= 1.0078 \times \frac{99.985}{100} + 2.0141 \times \frac{0.015}{100} \\
&= 1.008
\end{align}
と求められます.ここで三重水素(トリチウム)の存在を知っておられる方もいると思います.本来であれば三重水素も計算に含めて原子量計算をするべきなのでしょう.しかし,三重水素は自然界では非常に微量にしか存在しないため,計算からは省きました.
おまけ話:原子量の説明で「安定同位体」と言う用語を用いていましたが,自然界には不安定な同位体として放射性同位体も存在しています。原子量計算で放射性同位体を計算に含めないのは,放射性同位体は不安定なため崩壊して別の元素の同位体になります.そのために決まった存在比を持たず,正確な値を求めることが出来ないためです.つまり,放射性同位体しか存在していない元素については原子量を求めることが出来ません.そういった元素には多くの教科書や参考書で,最も長時間崩壊せずに存在していられる(半減期が最も長い)放射性同位体の質量数を便宜的な重さとして大まかな値は示されます.しかしその数値を原子量として用いることは認められていないため注意が必要です.
では練習問題として他の元素の原子量を求めてみましょう.
原子量について確認を終えると,同じ要領で$\ce{H2O}$や$\ce{CO2}$,$\ce{H2SO4}$など分子式,$\ce{Mg}$や$\ce{NaCl}$のような組成式,$\ce{SO4^{2-}}$のようなイオン式の質量を考えることが出来るようになります. 各化合物,イオンの質量はそれらを構成している原子の原子量の総和で求めることができ,そのようにして求めた分子式の質量を分子量,組成式・イオン式の質量を式量と言います.計算そのものは既に原子量が与えられた状態から始まるため,原子量を求めるよりも楽なことが多いです.
ex1)$\ce{H2O}$の分子量は
\begin{align}
\ce{H2O} = \ce{2H + O}
\end{align}
であるので,原子量($\ce{H}=1.00, \ce{O}=16.0$)を代入して
\begin{align}
\ce{H2O} &= 2 \times 1.00 + 1 \times 16.0 \\
&= 18.0
\end{align}
と求められますね.
ex2)$\ce{SO4^{2-}}$の式量は
\begin{align}
\ce{SO4^{2-}} = \ce{S + 4O}
\end{align}
であるので,原子量($\ce{O}=16.0, \ce{S}=32.0$)を代入して
\begin{align}
\ce{SO4^{2-}} &= 32.0 + 4 \times 16.0 \\
&= 96.0
\end{align}
と求められます.
【補足】イオン式も原子量の値を採用して,計算により式量が求めることができますが,$\ce{SO4^{2-}}$で見られるような「2-」,つまり電子の質量は式量計算に関与しません.その理由は電子の質量が陽子・中性子の$\dfrac{1}{1840}$程度の軽さであり,有効数字的に十分無視できる値であるためです
有効数字ですが,問題文中に数値があればその桁数を有効数字として問題を解いてください.しかし与えられておらず,指定もされていない場合は基本3桁で書いていれば不正解にされることはありません.
練習問題を通して計算に慣れていきましょう.
では今までの知識の総まとめとして以下の演習問題を解き,得た知識の定着を計りましょう.